2012年6月24日、ガラパゴス諸島に暮らしていた一匹のゾウガメが死んだことで、その種が途絶えた。それは「ロンサム・ジョージ/孤独なジョージ」と名付けられた、ピンタゾウガメの最後の個体。彼の死は、人類の業を深さを我々に思い知らせた。
しかし、もしかすると絶滅したピンタゾウガメも復活することができるかもしれない。ピンタゾウガメだけでなく、ニホンオオカミもステラーカイギュウという大型のジュゴンも、ドードーも体長3メートルを超えたナマケモノのミロドンだってもう一度地球に現れるかもしれない。
世界中で進む絶滅動物の復活計画。日本でも近畿大学が総勢10人からなる「マンモス復活プロジェクト」を立ち上げ、1万年前に絶滅した巨大な古代動物の復活に力を注いでいる。「今年前半のうちに、マンモスの細胞核移植が実現するかもしれない」。関係者の期待はかつてなく高い。
このような画期的な実験の助けとなったのが、2010年の大発見だ。シベリアの永久凍土層からミイラ化したマンモスが発見され、その後日本でも展示された「ユカ」と名付けられたメスのマンモスから、様々な科学的情報が抽出できたのだ、
「胚さえ作れればマンモスは復活できる。成功すれば世界で初めてだ」。プロジェクトを率いる近畿大大学院生物理工学研究科、入谷明教授(85)の表情は明るい。昨年7月にマンモス「ユカ」の細胞片を納めたサンプル100本がロシアから届いた。チームの研究者から「たんぱく質がしっかりしていて状態も良く、期待できる」との報告が上がっている。
しかしこの学術的挑戦は日本でのみ行われているのではなく、世界中の科学者たちが鼻息荒く世界初の偉業を狙っている。
ハーバード大のジョージ・チャーチ教授(59)も「おそらくマンモスが絶滅動物復活の成功例第1号になる」と予測。「マンモスは生態系に大きな影響を与えるので、復活によってツンドラに大草原を取り戻すこともできる」と、復活計画の意義を強調する。
ここで一度冷静になって見よう。
そもそも“絶滅”という現象は必ずしも人為的なものではなく、自然に摂理に従った結果のものもたくさんある。マンモスの絶滅の経緯は未だに不明だが、少なくとも人為的なものだとは考えづらい。もし仮にこの実験が成功し、ユマ以外のマンモスのDNAも利用して、相当数のマンモスが復活しツンドラを自由に歩き回ったとすると、それは異常な行為と言わざるを得ない。人類が無知を理由に多くの種を根絶やしにしたことと意味的には同じように、生命をもて遊んでいることになってしまう。そしてその問題は現代特有の倫理問題へと直結する。
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現代倫理学入門 (講談社学術文庫)しかし近畿大学の入谷教授によると、この実験の真意は別にある。
「絶滅の危機にひんした動物が1000個体いるうちに、増やすために復活技術を使いたい」。入谷教授がマンモス復活プロジェクトの次に掲げるのが「フローズン・ズー・プロジェクト」。世界中の動物園で、絶滅危機に直面した動物の細胞を保存し、遺伝子の多様性を確保した上で将来の復活につなげる計画。今年から国内の各動物園に協力を呼びかけていきたいという。
この実験は単に人類的ノスタルジーを満たすためだけのものではない。もう二度とロンサム・ジョージのような立場に動物を追い込まないための、人類の贖罪であってほしい。
映画『ジュラシック・パーク』では安易にも復活させてしまった恐竜たちに人間たちは復讐される。それを教訓にして、実験と平行しての倫理的議論を置き去りにしてはいけない。
ただおまえは生きたマンモスが見たくないのか?と問われれば、著者は胸を張って正直にこう答える。
もちろん見たいよ!
頑張れ、近畿大学!
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近大マグロの奇跡: 完全養殖成功への32年 (新潮文庫)引用記事:日本経済新聞 マンモス復活計画、日本でも 近大「今年前半にも細胞核移植」
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